或るワーキングマザーの日記

意識高い素敵なワーキングマザーには全然なれない。素敵な奥様なんてからきし無理。でもなんとかボチボチやってます。

お気に入りのスーパー

保育園の帰り、日課のように立ち寄るスーパーがある。

 

保育園の近くの大きいイトーヨーカドー、の向かいにある小さな小さなコープである。

向かいのイトーヨーカドーの野菜売り場と同じぐらいの面積しかないと思う。小さな店だ。夕ご飯の買い物にはちょっと遅い、いつもの時間に行くと、お客さんはどんなに多くても他に2組ぐらいしか居ない、なんなら店員さんのほうが多いことがある店である。

 

イトーヨーカドーではなくそのスーパーに通い始めたのは、なんでか息子がその店に行きたいと言って譲らなかったから。でも、今では母もお気に入りの店だ。

 

まず、店が小さいのが良い。目を離すとすぐどこかに行ってしまう息子をすぐに見つけることができる。他のお客さんは少ないから迷惑をかける可能性も圧倒的に低い。

向かいのイトーヨーカドーだったら、お菓子売り場に一人にするのもまだ躊躇うけれど、この店だったら大丈夫。どの売り場もすぐだから買い物しながら30秒ごとに様子を確認できる。

それから、これは通ううちに気がついたのだけれど、お菓子売り場はレジのすぐそばで、レジに立っている店員さんが息子のことを実は気にかけてくれている。なんせ、客は私たちの他に2人いれば良い方、つまりレジも大抵空いているのだ。もちろん、そんなこと全然期待してなかったけれど。

例えば会計の時に、私との激しいバトルの末、2つ欲しがっていたお菓子を一つに絞った息子を褒めてくれたりして、私と息子の会話は全部聞かれていたこと、気にかけてもらっていたことを知るのである。

 

 

ある日、珍しくレジに会計中のお客さんがいた。その後ろに並んで、レジ台にカゴを置くと、並突然息子が自分のおやつを引っ掴んでレジの中に入り、バーコードをスキャンしてしまった。

 

本当にあっと言う間。一瞬の隙を付かれた。確かに、彼はずっとレジのスキャンがやってみたくてしょうがなさそうではあった。でも、最近は言わなくなったので油断していた。

 

なにせ前のお客さんのレジはまだ終わっていない。慌てて前のお客さんと店員さんに謝りながら、店員さんに商品のキャンセルをお願いして、息子を強制的に確保してレジの列から離れる。

空いているお店の最もお客さんの来ない場所まで無理やり連れて行って説教である。

 

そんなことをする子はもうスーパーに連れて来れないと叱る。息子は、母の剣幕に意固地になって、激しく泣くだけである。親が強く叱れば叱る程、反発して言うことを聞かない。知ってる、私もそういう子供だった。しかし、これは譲れない。何度も念を押す。息子はますます反発して泣き叫ぶ。全然終わらない。

 

そろそろ、このままぎゃん泣きの息子が店内にいることも迷惑だと感じ始める。いくら客の少ない店の、滅多に客のこない売り切ればかりの惣菜コーナーに移動しているとはいえ。他に1人ぐらいしか客がいないとはいえ。

 

店員さんかこちらを伺っているのもわかる。何度も言うけれど、何せ小さい店なのだ。叱る声は全部聞こえているだろう。

 

何度目かの念押しで、「もうやらないでね?連れて来れないからね。」というと、

「じゃあこれ読んで。」

とその辺にあったポスターの文字を全部読むことを要求してくる。

「読んだら、もうやらないんだよ?」

息子が初めて小さく小さくうなずく。

意味不明だ。しかし、これ以上お店に迷惑をかけるわけにもいくまい。読み上げる。

 

 

なんとか落ち着いた息子を連れて、今度は誰も並んでいなかったレジでお会計をしていると、レジのおじさんが(もちろん、さっき迷惑をかけたおじさんだ)

「僕も子供の頃こんなだった気がするんです」

と優しく笑いながら言ってくれたのである。

 

こんなの、泣く。

 

「本当にすみません」とぺこぺこ頭を下げながら、お金を払う。

 

隣のイトーヨーカドーみたいに洗練されたザお客様は神様ですって感じの接客じゃない。でも、ちょっと素朴だけど、逆に言えば、マニュアルじゃない暖かい接客をしてくれる。ここでは、息子も、私も、受け入れられている。

 

初めて店内で「トイレ!」と息子が叫んだ時、近くで品出ししていた店員さんが間髪いれず「あっちよ!」と場所を教えてくれたこと。会計の時レジにいたその店員さんが「間に合ってよかったね」と言ってくれたこと。

 

2列に積んであるお店の入り口のカゴを、いつも同じ高さに揃えないと気が済まない息子に、今日もなのねと笑って、やらせてくれること。

 

これが、地域の中で子供を育てるってことなのかも知れない。

 

私自身、郊外で暮らして、イトーヨーカドー的スーパーに通って育ち、こんな経験を子供の頃にした記憶がない。

いつもいくお店に自分の成長に目を細めてくれる顔見知りの店員さんがいるって幸せだ。こうやって息子が、親や保育園の先生以外の大人に受け入れられる経験を出来ることが本当にありがたいと思う。

 

お菓子の品揃えだってイマイチなこの店に、何故か息子が通いたがるのは、彼自身がこの店に受け入れられている事を感じているからかもしれない。

 

これからも保育園を卒業するまでずっと通うから、なくならないでね。

いつもお客さんがいないから潰れないかすごくすごく不安だけど。